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DU1

村山伸と緑川卓による<Delicate Unit>が、「DU1」というジャケットを作った。伸くんは、ニューヨークに拠点を置くマスクメイカーだ。ケンドリック・ラマーやHYUKOH、小沢健二などにマスクを制作していて、以前AWWにも素敵な記事を寄せてくれた。<TWONESS>というブランドのデザイナーでもある。そして卓氏は、<Midorikawa>というブランドのデザイナー。2017年に東京で立ち上げ、2021年度にLVMHプライズのセミファイナリストに選ばれている。そんな彼らが、丁寧に選んだ自分たち好みのMA-1をベースにして、同じくヴィンテージのパブタオルとビール瓶の王冠でカスタマイズした。タオルも背中のハサミパッチも、時間をかけた手縫い。世界中が混乱していた2年間、ニューヨークと東京に暮らすふたりはフルハンドメイドのジャケットをチクチク6着作っていた。

「2020年に世の中が変わっちゃって、今作るべきものはなんだろう、こんな時何をしたらいいんだろう、って考えたときに、卓と何かやりたいなって思って。しばらく静かにしていた<Midorikawa × TWONESS>とか<TWONESS × Midorikawa>とか、その都度便宜的な表記をしていたユニットがあったから、再結成というわけじゃないけど、改めて、<Delicate Unit>というチームとしてやっていこう、って」(村山伸*以下、伸)

そこで、まず彼らが取り掛かったのは自分たちの“ユニフォーム”作りだった。それがこの「DU1」。

コルビュジェ作品に「LC1」「LC2」…と番号が振られたように、「DU2」「DU3」と、ゆっくりタイトルを増やしていく予定で、MA-1だから「DU1」ということではない。

「フィッシュテールパーカとかジーンズとかにパブタオルを縫いつけたものは、イギリスのモッズ、それから派生するスキンヘッズという人たちのムーブメントとして1960年代からあって。中でもMA-1とパブタオルという“取り合わせ”がいかにもDU的だなと思ったから、そこから自分たちのシグネチャー、ロゴを刺繍したりビール瓶の王冠を叩きつけたりして、「DU1」を作ったんだ」(伸)

洋服への愛と知識が深い彼らは、モッズやスキンヘッズの持つ文化や歴史にももちろん敬意を払っている。だからこそ、当事者たちからのポジティブな反応はとてもうれしかったそう。

「上っ面をさらったように見えるのだけは嫌だった。Aphex TwinのロゴデザイナーPaul Nicholsonが『自分はモッズ少年だったから、伸がMA-1にパブタオルを付けているのを見ると、スキンヘッズになりたかった青春時代に連れ戻される』って連絡をくれたりしたよ」(伸)

”ユニフォーム”というコンセプトは?

「卓には<Midorikawa>があるし、僕にはマスクやアートがある。自由なフォームでお互い好き放題やってるから、何か新しいことを二人でやるならば、形式で遊ぶとか様式に依存することをあえて楽しむのがいいかなって。ただこれも特に話したわけじゃなくて、どちらかが『じゃ、ユニフォームで』って言ったら『いいね、ユニフォーム』って、それだけ。『いいね』『いいね』って、これを2年やり続けるんだけど(笑)」(伸)
「昨日も何という話でもないのに1時間半くらい電話してたからね」(緑川卓*以下、卓)

伸くんがパブタオルやパッチを縫い付けた6着のMA-1がニューヨークから届く。

こんな調子で馬が合う彼らは、そもそも親戚同士。伸くんの祖父の妹が卓氏の祖母、つまり再従兄弟(はとこ)の関係だ。5歳違いのふたりの今に繋がるような、思春期のエピソードも。

「卓は東京で、僕は新潟で、うちの祖父母が本家みたいな感じで、お盆とかになるとみんな集まったりして。だから小さい頃から会ってたよね。卓が中学生になると、その新潟の祖父母の家の近くの古着屋にみんなで行ってなんか買って、みたいな」(伸)
「覚えてる覚えてる」(卓)
「するとうちの兄が『あ、卓がいいの選んだじゃん』て、それっぽいこというわけ(笑)。でもその時卓が選んだものは僕も覚えてて」(伸)
「<ラルフローレン>の、水色でボーダーストライプの。ヘンリーネックのちょっと変わったやつだったよね。だから、僕から言わせれば、クリエイティブな道へのきっかけになったのはこの兄弟なんですよね」(卓)

その後も、文化服装学院を卒業したふたりは、つかず離れず、一緒に過ごす。伸くんが働いていた展示会やショップに卓氏を呼んだり、アートを制作したり。そして2017年、今回の「DU1」のルーツとなるパブジャケットを<TWONESS × Midorikawa>として「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」で販売した。卓氏にとってはそれが初の<Midorikawa>としての活動でもあった。そこからずっと、何か作っては「じゃあこれは、どこのお店で売ってもらおうか」と話し合い、都度、店に声を掛けていくことになる。一般的には決まった取引先があって納品するのだろうけれど、彼らのやり方は、作家が小説を書き上げた後に持ち込む出版社を決めるかのような、独特のスタイルだ。

卓氏が王冠を叩きつけて完成させていく。

今回6着の「DU1」が販売される「Out of museum」には、オーナーの小林眞さんによって蒐集された古今東西のアートや本、DUのふたり曰く「世界中から集められた伊達じゃないガラクタ」が並ぶ。

「卓と二人で、とにかく、物1点に宿るパワー、エネルギーのことだけを考えて作ってきて。あとのことはどうなるかわからない、とにかくいいものが出来るまでやってみよう、って。だから眞さんのお店に置いてもらえるのは光栄だし、感謝してます」(伸)
「我々のことを昔から知ってるので、こういう物を作ってるって話もほとんどせずに、出来上がったら売ってくれませんか、っていつもの唐突な感じで相談して、眞さんも二つ返事でいいよ、って言ってくれました」(卓)

そう、小林眞さんとは、2000年台前半に原宿で出会ってからの付き合いだ。

「働いていたショップ近くに当時眞さんが経営されていたカレー屋があって。よく食わせてもらってましたね。うちらが遅くまで仕事してるとその店でアルバイトをしていた友人がローラーブレードで店の余りを持ってきてくれたり」(卓)
「それこそお揃いのスタジャン着て行ってたよね。自分たちでカスタマイズした、まさに“ユニフォーム”。思えばその頃からすでにチームの意識があったんだ。チームといえばイメージするものがいくつかあって、たとえばカリフォルニアのスケートチームとかモーターサイクルのギャングの袖なしのGジャンとか。それで自分たちもその気になって、お揃いのスタジャンでジブリの映画観に行って(笑)、カレー屋に寄って。そういうのが脈々と、今に至るまで、ぜんぜん終わってないんだ」(伸)

ネーム代わりの<Delicate Unit>刺繍入りのバンダナと、一輪の薔薇を添えて。「DU1」¥330,000(Delicate Unit|アウトオブミュージアム)

アウトオブミュージアム @outofmuseum

Photographed by Masahiro Sambe
Model: Zen Midorikawa
Edited by Town