また文庫本を読むようになった。
ここ2年ほどもっぱら自転車で動き回っていたが、最近ちょこちょこ長距離移動が復活し、手に取る機会が増えたのだ。それで、三省堂書店が昨年140周年記念で発売していたブックカバーをおろした。本店のある神保町の街並みやSANSEIDOのエンブレムのデザインが美しい上、活版印刷の感触が気持ちいい。
思えば読書の仕方も、コロナ禍で大きく変わった。出先のカフェで読むものだったのが外出自粛で出来なくなり、代わって現れたステイホーム時間。本をめくることはあってもどこか集中できず、スマホの画面をスライドしては好きなスポーツ選手の日常を見に行き、無駄な検索に発展していったり。
家の本棚にある、何度も読んだもの、読んだかどうかすら忘れたもの、そもそもなんでここにあるかも分からないような文庫を、手当たり次第に持って出かける。すると、ドストエフスキーやカミュの古典が、ままならない2022年をどうにかやっていくための勇気をくれる。中谷宇吉郎の真摯で情熱的な雪の研究に胸を打たれる。保坂和志がブツブツ書いていた偶然が絶対化する愛の定義を思い出す。
相変わらずiPhoneは手放せないけれど、日に日に、活字の確かさを持ち歩きたくなってきている。
三省堂書店 03-3295-1881
Written by Saya Kawada (Town)