• A BAG FULL OF MEMORIES

SAD TOGETHER

去年の冬に買ったアニエス・ベーの丸いバッグ。初めて見た瞬間に、「あ、12インチが入る」と思った。12インチはレコードの規格。ちょうどすっぽり入るサイズだった。昔はレコードをよく集めていたな。ここだけの話、DJも少しやってたんだよ。ディスコとかハウスが好きで、もちろんロックもファンクもソウルもジャズも心から愛して、夢中でレコードを買っていた。このバッグにレコードを入れてDJしに行ったら楽しそう、と思った(直に入れると傷がつくので絶対入れませんが)。


そんなことを考えながら愛用しているこのバッグ。みのりちゃんとか児玉くんとか、おしゃれな友達に褒められて嬉しい。レザーのカチッとしたバッグは決まりすぎちゃって気恥ずかしいことも多いのだけど、これはフォルムのおかげでそうならない。

意外となんにでも合うバッグ。ある日の夕方銀座線に乗っていたら、年上の知り合いを偶然見つけた。顔見知り程度だし、混んでいて絶妙な距離だったので、声をかけられずに黙っていた。ふと目をやると、その人もサイズ違い・色違いの同じバッグを持っていることに気がついた。黒のドレスに合わせて、パーティーバッグみたいに持っていてとても素敵だった。その人は銀座で降りていって、これからディナーにでも行くのかな、とか想像した。想像しては憧れた。


悲しみを包み込む(かもしれない)丸いバッグ。そういえばその日は悲しいことがあって、もう何があったかすら忘れちゃったんだけど、とにかく泣きたい気分だった。帰り道にイヤホンで音楽を聴いて(レコードも好きだけど今はもっぱらSpotify)気を紛らわせた。聴いていた曲の中に”sad together”という言葉が出てきて、いいなと思った。 ”この街の曇り空も私も一緒に悲しい、だから一人じゃない” という内容の歌詞。それで、あの日の銀座線と、年上の知り合いと、このバッグが、私の悲しみに共鳴してくれているような気がした。もちろんそんなの錯覚だし妄想なんだけど、ちょっと救われた。丸が優しいバッグ。レザーで大ぶりで、決して軽くはないのだけど、私には軽やかなバッグなのだ。

Written by Coco Kanayama
/ Director of esmeraldaserviceddepartment
Photographed by Local Artist