数年前から、自分で始めたアートプロジェクトの関係で、フィールドワークに行くことが多くなった。国内だと車移動も多いし、布のトートバッグくらいで事足りるが、海外となるとやっぱりパスポートとか大事なものを携帯しないとならず、あれこれモノを入れる大容量のバッグの他に、小さいバッグが必要になる。
今回は、台湾生まれ、日本語育ちの小説家の温又柔さんに導かれ、真夏の蒸し暑さだった台湾のリサーチ10日間。冬だとセーターの下とかに薄いポーチなんかを忍ばせればいい。けれど、暑い国となると薄着なのでそれができない。で、重宝したのがISSEY MIYAKEのバッグだ。GOOD GOODSのもので、ケーキなんかの組み立て式のお菓子の箱からインスピレーションを得たデザインとのこと。コロンとした形がかわいいし、濡れても平気な素材、厳選すれば大事なものはわりと入る。

冒頭の写真は、『千と千尋の神隠し』のモデルとなった街とも言われる九份のカフェで撮った。ほとんどの人はノスタルジックな夜景が目当てだが、私とカメラマンの朝岡君がわざわざここに来たのは、台湾の巨匠監督・侯孝賢による名作『悲情城市』の舞台だったからだ。

この映画は、台湾での1945年の終戦日から始まる。戦後の混乱、台湾がその後長きに渡り見舞われた白色テロ(中華民国政府[中国国民党政権]による長期的な民衆への弾圧・虐殺)のきっかけとなった二・二八事件を描いている。若かりしトニー・レオンのかっこよさにも震えるが、市井の人々が意図せず政治的弾圧に巻き込まれていく様子が切ないし、恐ろしい。隣国の歴史を学べる作品としても素晴らしい。
九份は、戦前まで金鉱が盛んで、アジアのゴールドラッシュと呼ばれた地。このカフェの近くにはかつて最先端だっただろう映画館の建物も残っていて、風情がある。

とまあ、リサーチトリップなので、何かと歴史探訪的な旅になったけれど、週末旅行で行った台南では、旬のマンゴーが軒並み売り切れていて、やたらと西瓜を食べた。西瓜は昔モロッコで脱水症状になりかけた時に救ってくれた果物で、それ以来、暑い時に進んで食べるようにしている。

たった二回目の訪問で、10日間という長期間滞在することになった台湾。前に行った時は台湾の歴史をそこまで知らなかった。でも今回はそれなりに勉強していたから見える景色はまるで違った。想像以上に南国で気候も全然違うこの地が、かつて日本だった時期もあるんだよな…と思いを馳せていると、若いバーテンの子に「今度、東京に行くから、おすすめのお店教えて」なんて話しかけられて、時の流れに戸惑いながら台南の夜は更けていった。


Photographed by Eisuke Asaoka (Top)
Written by Satoko Shibahara / Editor, Writer