• CAR

MY VERY OWN CAR

 ここ最近、少し先の「未来」について考えている。

 ぼんやりと「未来」ってヤツを考えていると、コロナ禍になる前にブルックリン・ミュージアムで観たピエール・カルダンの回顧展を思い出す。そこで見た冷戦時代の宇宙計画に影響されたイメージは、幼い頃に影響された手塚治虫、藤子不二雄といったトキワ荘の世界そのままだった。その頃は(今でも)色鮮やかなボディスーツのようなぴったりした服が未来の服だと思っていたし、カプセルの中になんでも収まるような気がしていたし、「未来」というのはピカピカしていて銀河系の先にあるような気がしていた。ところが、アイフォーンが登場したあたりから「未来」というものは、実は普通の顔をしていて、スルッと近寄ってくるもんなんだなと思うようになった。

そこで、テスラのモデル3をアイフォーンで買ってみた。いわゆる電気自動車というヤツだ。モデル3はポルシェ911とプリウスを組み合わせたようなみてくれで、ややパチモン感があるセダン。5人乗り。高くも安くも見えない普通の存在感がとても良い。インテリアはありえないくらいシンプル。というより、でっかいアイパッド(みたいなタッチパネル)とハンドルだけ。何もない。「最近の回転寿司か!」とツッコミを入れたくなる。なのに最新のテクノロジーがつまっていて、アップルが車作ったらこんな感じだろうっていうような仕上がり。自動車メーカーが作る「未来」の車はなんだか鋭角でピカピカしていて、どこか偉そうな面構え。世の中がフラットになって久しいのになぜかデコラティブ。きっと今後はテスラかそれ以外か、になっていくのだろう。

気まぐれでポチったわけではない。最新のテクノロジーに早めに触れたかったし、ボタン一つで何百万円の車をカート入れて買い物をするのも馬鹿げていて面白い。私たちの「未来」は常識知らずのようだ。なにより、日々雑務に仕事に追われている「私」と世の中の「最新」とが、どのくらい離れているのか知りたかったのだ。モデル3に乗り出してして何ヶ月か経つけど、思いのほかスルッと生活に入り込んで随分前からそこにあるかのような顔をしている。物事を知るということは、その事柄を頭で理解したぞと思っていても、意外とわかっていないもので、その事柄を体感し、生活に取り込むことでみえてくる。と個人的に思っている。このことはアイフォーンを使ってみて実感したことでもある。
 仕事を終えて家に着くまでのあいだ、ゆったりと走るのがとても心地が良い。窓全開にしてアイフォーンで適当に音楽をかけながら。

TECH - CAR

Written&Photographed by Akinobu Maeda / Art Director