• MILD REALITY

Serbian jam sandwich cookies

2024年秋、ベオグラードの友人を訪ねた。2012年以来2回目だった。「コソボ問題を抱えているためEU加盟がまだまだ先延ばしになっている」と言われるセルビアは、個性的で街には不思議な建物がたくさんあった。人々は朝市で買い物をし、そこにはたくさんの種類の形の悪いパプリカやトウモロコシ、手作りのジャムやアイバル、知らない味(匂い)のチーズ、ドナウ川で獲れた魚や近くの農場からの肉が売られていた。EU圏内に住んでいる私には、異国情緒たっぷりで心がはしゃいだ。EU内の交通や物流の便利さ、人道的恩恵を知っておきながら、EUになんて加盟しなくていいのに、とすら思った。

それでも2012年の時に比べ、道路は整備され、街は「綺麗」になっていた。当時はよく見かけた日本のバスやスイスのトラムなどの寄贈品は姿を消し、ベオグラード独自の赤と白を基調にしたバスなどに変わっていたし、小さな商店もアメリカの大手チェーン店に変わっていた。

スウェーデンの携帯電話が使えず、9歳児と一緒に迷子になりたくないので、行き先の表示が読めないバスには乗らず、スクショした地図を見ながら街を歩いた。5日間滞在したのだけど、毎日5〜6時間は歩いた、と唯一携帯に表示される時計機能と万歩計機能が教えてくれた。

ベオグラードの隣の街ゼムンは小さな街だが、ベオグラードに比べるとまだ少し小さな商店が並び「古き良きベオグラード」を思い出させてくれた。甘いものが食べたくなったので、友人が教えてくれたゼムンに昔からある焼き菓子屋まで力を振り絞って歩いた。アプリコットのジャムが挟まっていて、まわりに粉砂糖がまぶしてあるセルビアで定番のクッキーは、前に来た時にも友人が振る舞ってくれたものだ。友人家族用の10個は透明なプラスティックの容器に、私たちの食べ歩き用の2個は薄いスケスケの脂分のしみやすい紙袋に入れてくれた。お店を出て、ゼムンの街を左手に見ながら階段を登って、墓地を抜けて、家までの道のりを再びひたすら歩く。疲れ過ぎて脳みそがバグり出したのか、アプリコットジャムと西陽の色が重なって、妙に情緒的になってきた。いや、オレンジ色がパンプキンを思い出し、墓地にいたのでハロウィンを感じたのかもしれない。アプリコットジャムサンドクッキーは、相変わらずクッキーがしっとりしていた。きっとジャムが熱いうちに挟んでいるのだろうと仮説を立てた。

ストックホルム在住のYoko Andersson Yamanoが綴る、「少し夢心地だけど、ちゃんと現実」の思い出にまつわる話。

Written & Photographed by Yoko Andersson Yamano / Craft-based glass-artist, Tableware designer