• MILD REALITY

MILD REALITY

雪山の濡れた靴下や誰かの口癖、喧嘩した後のアイスクリームなど、その経験が自分の思考の中で時間と共に色褪せたり、自分の感情や考えが後から脚色されて、いつしか「思い出」となり、私たちの人生を豊かにしてくれることがある。忘れたはずの「現実」が予期せぬきっかけで思い出されたり、時には、現実だったのか夢だったのか、と行ったり来たりすることもある。

「思い出」って、つまり「マイルドな現実!」だと思い、「MILD REALITY」と名付けてガラス作品を作ったこともあった。「思い出」を人が計算しえないものと定義付けた時、不変的ではないところが自然光に似ていると考えた。白いガラスの上に分厚くたっぷりクリアのガラスを巻き取って、花器を作り、そのクリアガラスの表面にサンドブラストで薄く模様を付けた。自然光の中に置かれたその花器は、朝や曇りなどの淡い光の中では、サンドブラストの模様が影を潜めてその後ろにある白いガラスにカモフラージュされて見えなくなってしまうのだが、直射日光や西陽などの強い光が当たるとその白いガラスにくっきりと影を映し、存在を認識できた。

現実にある模様が、時間と角度によって見え方を変え、美しくも普遍性を失っていくように、そこに存在した、しているという「現実」から、頭の中で自分勝手でマイルドな物語が繰り広げられる。嘘のような本当の話であり、本当のような夢物語。そんな「MILD REALITY」をテーマに、何かのきっかけで思い出した物語をこれから少しずつここに書き綴るつもりだ。

ストックホルム在住のYoko Andersson Yamanoが綴る、「少し夢心地だけど、ちゃんと現実」の思い出にまつわる話。

Written & Photographed by Yoko Andersson Yamano / Craft-based glass-artist, Tableware designer