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KINOKO LOVE

向こう10日間、天気予報は毎日雨。私が住むPNW(太平洋岸北西部)ワシントン州のオリンピアは、秋から春の訪れまで日照時間も短く、灰色の日々は気分も沈みがち。曇りと雨ばかりだけど、急に雲の間から青空が現れたかと思ったら、天気雨になることも多い。ダイアモンドのような滴が針葉樹林の葉から爽やかに光って、急いで太陽に背を向けて虹を探す。
こんな気候だからグランジが生まれメタル音楽も主流、ネオペーガンや薬草に詳しい緑の魔女の友達も多い。この土地が緑と豊富な水源に恵まれ、キノコ諸君が繁殖しているのも雨季のおかげである。ネオン色に輝く苔や常緑樹に導かれ、キノコ愛好者は雨具に身を包み、森に出向く。1日1度は雨の中でもしっかり外を歩かないと心も晴れない。

10年程前、北カリフォルニアの山に滞在した時、フォトジェニックな彼らの存在に初めて気づいた。視線を落とせば、いつの間にか現れたり大きくなったりする彼らがあちこち偏在し、あっという間に心を奪われてしまった。地元のキノコ愛好者が数々の野生のきのこをテーブルに並べ、試食も兼ね講義を行い、お土産に松茸もいただいた。それ以来、その時学んだ食べられる野生キノコを求め、更に新種のきのこを写真で収めようと、森やトレールを歩くのが日常になった。見つけたきのこを家にある本と比べて識別したり、こんなのに遭遇したらどうしよう!とか想像したり。見るだけでも崇拝したくなるテングダケなどの種は、地上に出てくる時期と場所を過去の記録から確認して、まるで観光スポットを訪れるような気分。撮った写真を眺めるのも良いが、やはり生で見て、できたら今までよりも良い条件の光と背景で、新鮮なポートレートを撮りたい。こうして引き続きカメラを持ち歩いて散歩する。彼らも私たちのアテンションを好んでいるだろう。動物が歩けば胞子も飛び、地下の菌糸体も活発になる。

この十数年、アメリカでキノコはおしゃれでトレンディーになったとよく耳にする。オリンピアには、このムーブメントをリードする、スタートレックのモデルにもなった菌類学者ポール・スタメッツ(Fungi Perfecti)がいる。キノコを薬と考え、サプリメントから栽培キット、環境復元やヒーリングとして使われるサイケデリックマッシュルームの研究と開発を進め、世界を救おうと試みる。キノコの菌糸体で作られたフェイクレザー(アンレザー)のプロダクトを展開するステラ・マッカートニーは、「キノコはファッション業界の将来を担う」というスタメッツのアナウンスで2022春夏のランウェイをスタートさせた。

ひとり森へ移り住み音楽を作りながら小さな山小屋で暮らす友人のベンが、シャンテレル(アンズタケ)採集に連れ出してくれた。毎日森の中を散歩に出ると、エルクや鹿、フクロウや熊にも遭遇し、その熊とは微妙にも友達になったらしい。小屋の近くの木に、新しく掻かれた友人の爪痕があった。先日スタメッツが対談で、このように話してた。「木の中の菌類は熊の爪から川の鮭に移り、キノコの免疫で強くなったその稚魚が大海へ、再びその川に戻ると、また熊は鮭から海の豊かな栄養分を森に戻す(要約)」自然界ではこんな壮大な旅が当たり前のように行われているなんて、眼から鱗が落ちる思いである。理系の授業に興味がわかなかった私も、この数年、生物や植物、菌類の本を読み始め、自然からの勉強で心も豊かにさせてもらっている。

初めてのシャンテレル探し。30分ほど歩いたとこで、眩しいパンプキン色の華麗な姿が、苔や落ち葉の間にひっそり輝き佇んでいた。土からからきのこを優しく採って、息子が持つかごの中に入れる。もう少しあるかな。さらに森の奥深く入る。いろいろな香りがする。シダをかき分け、大きな倒木を登って、堆肥豊富な柔らかい地球の絨毯を歩く。生きてるもの、死んでるもの、またその間のもの。目を凝らして、鳥の歌声に耳をすませ、ハックルベリーの実を頬張って、大切な会話を交わしながら、宝探し。

こうして楽しく収穫したシャンテレルは、子供が激しく揺らし続けた籠の中で、傷んでたりしていた。ブラックベリーをたくさん取った時も、容器の下はジュースみたいになっていたっけ。でもこの日は家に帰って、地元のおいしいピザ屋さんの生地を使い、良人がシンプルなシャンテレルピザを焼いた。あれ、このきのこ、こんなに美味しかったっけ?とびっくり。
私のキノコ好きも家族にうつり、良人も息子も張り切ってきのこを探してくれるのは嬉しい。

たくさんの可能性を秘めたキノコたち。きのこ葬儀が可能になるまで長生きし、大地に自然にいつか帰ることを夢見る。

Written&Photographed by Fumie Ishii