もう口にも出したくないけど、今年の夏はものすごく暑い。朝起きて、エアコンのかかっていないキッチンに来た瞬間、ため息が出る。それでも、とりあえずお湯を沸かす。どうしても日中はアイスコーヒーとかコールドドリンクにしがちだし、日が暮れれば冷えたワインとかがいい。だから、唯一まだ体が眠っている朝に、熱いお茶を飲む。
この夏、久しぶりに飲んでいるのが、ヴァーベナのお茶だ。スキンケア用品や香水の原料としてよく耳にするこのハーブが、お茶になることはずっと知らなかった。初めて飲んだのはモロッコ。2017年、荒涼とした砂漠にポツンとあるアーティストインレジデンスに滞在した時のことだ。出てくる食事にフレッシュな野菜はほとんどなく、毎日ラムのトマト煮込みにパンとなかなかヘビーで、胃腸もすっかり疲れていた。しかも連日の砂嵐。『マッドマックス 怒りのデスロード』を見た時、既視感ありすぎる…と思ったほどの荒天だった。そんな時、「胃がすっきりするよ」と出してくれたのがこのお茶だった。アラビア語ではルイーザ[لويزة]と言う。
香りはレモンに近く、すっきりと爽やか。味はほんのり甘い。ミントティーにも大量の砂糖を入れるモロッコにしてはめずらしく、何も加えずに飲む(ちょっと調べたら、ミルクティーにするのも一般的だそう)。鎮静効果があるようで、窓に雨ならぬ砂が叩きつけるなか、私たち(他には長期滞在するというオーストラリア人のアーティストやアメリカ人の小説家がいた)は温かいルイーザ茶を飲んで、必死に心を落ち着けた。
フランスでは、ノンカフェインのスリーピータイムティーとして日常的に飲むらしい。今年の初め、パリに行った時に茶葉を見つけて迷わず買った。この夏、災害としか思えない暑さが続く東京で、やはり私はホットのルイーザを飲んでほっとしている。その昔、『美味しんぼ』の山岡さんが、夏にはチリチリに熱いほうじ茶を飲んで暑気払いをするのが良いと言っていたのを信じて。
Written & Photographed by Satoko Shibahara / Editor, Writer