僕はスポーツ選手が撮りたい。できれば自分が信じられる選手を撮りたい。例えば、目の前を大会で優勝した別の選手が通り過ぎても写真を撮らない。そこには、信じられるものが無いから。写真は共犯関係が大事だし、コミュニケーションだから。
ただ近くに居てドキュメントするわけではない。その瞬間その場所にいないとダメな時があるから近くにはいたい。特別な瞬間に出会いたいし、もしも出会えたらその場にあるすべてを持ち帰るつもりで写真を撮る。光も空気も匂いも、そこらへんに落ちているペットボトルも、全部。
あれは去年の秋だったと思う。アリゾナ州フラッグスタッフでマラソンランナー・大迫傑くんのトレーニングを車で追いかけ撮影していた。待ち構えて撮ることもできるけど、大迫くんは本当に一瞬で通り過ぎる。
初めは晴天だったのに、徐々に天気が悪くなり雨が降り出した。小雨とかじゃなくて、スコールのような強い雨。それでも、大迫くんはまるで雨が降っていないかのように変わらず走り続ける。やがて、雨が止み、また晴天が訪れた。そのあと、もう一度強い雨に襲われて、また晴れた。けれど、やっぱり何事も無かったかのように大迫くんは走り続ける。
僕と友人は車の中で目まぐるしい天候の変化と、何も変わらない大迫くんの走る様子を眺めながら「本当に良いものを見たね」と興奮気味に何度も話をした。間違いなく、今日のような素晴らしい瞬間に出会うために僕は写真を撮っている。
Photographed & Written by Shota Matsumoto