この椅子は、アムステルダムの倉庫みたいな古家具屋から、右肩にひょいと担いで連れ帰った。トートバッグ買ったくらいの気軽さ。造りはがっしり。これ以上ないくらいシンプルな構造で、壊れる要素なし。座面が低いので、座るとちょこんとした気持ちになる。ふだんは荷物置きになっている、名もなき椅子。どこかとぼけていて、人を緊張させない。
買った決め手は脚のオレンジ色だった。オランダで見たいろんなオレンジ色の思い出代表。クロケットっていうややスパイシーでカリカリなコロッケの色(これがほんとびっくりするぐらい赤寄りの橙色、彩度高め)。工事現場で働く車のみかん色っぽいオレンジ(に、この写真の芝生みたいなグリーンのコンテナを合わせてくるのがにくいダッチセンス)。公共図書館がこんなかっこいいなんて反則では? と嫉妬でギリギリしたobaのロゴの色は、……あれ、赤だった(しかしギリギリオレンジ色と言っても差し支えないのでは、くらいの赤)。今はもうなくなってしまった書店、Nijhof & Leeのショップカードの裏側もオレンジ色だった。
これはたった今Googleで調べたんだけど、オランダ建国の際に指揮をとった方のお名前がオラニエ公、つまりはオレンジ公、だったことからこの国では自由と独立の象徴としてオレンジカラーが激しく愛されているのだそう。自由と独立か。酔うと(酔わなくても)そんなようなことばっかり話している友人とアムステルダムで飲んだ濃いめのビールに陽があたったときの透き通るオレンジ色はまだ目の裏に眩しく、次に行ける日を楽しみに、今日もこの子の脚が眩しい。
Written & Photographed by Natsuko Yoneyama