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TALK WITH SEKI-SAN

インテリアデザイナーの関祐介さんに、アートディレクターの前田晃伸さんが会いに行きました。

◎関さん、こんにちは。私が気になる人に会うという連載なのですが、今回のお相手は令和の破壊王こと関祐介さんです。関さんのお仕事で面白いなぁと思うのは、コンプラとか色々厳しい時代に、アプローチが乱暴すぎるわけじゃないですか。もちろん、小川珈琲みたいな、綺麗なお仕事もありますよ。でもだいぶ乱暴なのが目立つじゃないですか。そこはどう考えてるんですか?

悪目立ちしているかもしれないですね…。でも乱暴とは思ってないんですよ。わざと乱暴なことしてやろうとか、目立つこととか、そういう意識は本当にないんです。それよりも根底にあるのは、格好悪いことはしたくないっていう、そこだけなんですよ。最初から仕込んで、こういうことをやってやろうというよりかは、打ち合わせで施工屋さんやクライアントと話をするなかで、何かの発言がトリガーになって瞬間的に出ることが多いですね。もちろん、何らかの前段階の準備が自分の頭の中で行われているので、何も考えずに感覚だけということでもないんだろうとは思います。だから自分からどういう考えが出てくるか、結構楽しみなんですよ。そういう風に自分のことを見ている感じですかね。二重人格かもしれない(笑)

◎なるほど、客観視できてるわけですね。

進行中のプロジェクトでも、どういうのができるのかな?って、他人事のように見てる部分もあって、面白いですよね。他の設計者の方はどういう感じかわかんないです。

◎面白いな。建築というジャンルで、ある意味ファッション的な考え方、感覚でやってる人ってあんまり見たことがない。大抵がやっぱ練りに練ってこうなりましたっていうことが多い中、「これノリで来たな」みたいなポジティブな気持ち良い感覚を感じたのが、関さんが初めてだったんですよ。

ありがとうございます。どうでしょう、いないかな?

◎自分がそんなに建築を見ていないのもあるかもしれないけど、大本のアイディアはノリかもしれないけど、それが現実に着地するときにはもうガチガチになっていて、最初のヴァイブスが残らないっていうか。

あぁ、そうですね、衝動なくなってますよね。

◎なんか関さんの場合は、残ってますよね。

それは言われたことあります。なんか発想が学生って(笑)

◎学生っていうか、スリーピースバンドみたいな、「もうこれ最高!」みたいな。

ストレート・エッジみたいな。

◎「これで俺ら天下取れる!」みたいな、そういう気持ち良さがあるんですよ。

考えたことを、純粋に伝えたいというのはあるんですよ。そこはすごい大事にしているんですよね。

◎その感じはファッションとかは出るじゃないですか。「これがイケてるから、これでいきたい」みたいな。それが大きいムーブメントになる。

なりますね、<バレンシアガ>とかそうですね。

◎なんかその感じが、やっと建築にも来たみたいな。やっぱり、関さんのバックグラウンドだったりとか、ヴァイブスが仕事に出て来るというか。

基本建築よりも、ファッションとかばっかり見てきたので、それの影響はかなりありますね。<(メゾン・)マルジェラ>も、マルタンがいた頃から見てるし、買ってるし。そこの純度はでも、キープしたいです。

◎素晴らしいですよ。なんかそんな感じします。

でも、どうやってやっているのか、自分でもわからないんですよね。自分のやってることを言葉で説明するっていうのが難しい。言葉で説明できるようになったら死亡届出しに行きます(笑)

◎(笑)そこがいいんじゃないですかね。でもゆくゆくは本とか作るんでしょ? 分厚いやつ。

まぁまぁ(笑)本とかで出せるといいですけどね。今、デザイナーの坂脇慶さんと作っているTシャツがあるんですよ。自分が手がけた物件の特徴がそれぞれデザインされたTシャツです。

◎物件ごとなんだ、やばいね。それはいつ頃発表されるんですか?

それは多分、僕が坂脇くんに返事をしていないだけで、もうすぐ出来ると思います(笑)あとバッグが2種類出るんですよ。やっぱり建築って、アカデミック過ぎるんで。建築とか設計の人って、まず書物にしてっていう順番があるんですけど、そうじゃなくてもいいような気はしてる。海外の建築家でも、Tシャツ出したり、コラボレーションしてる人は時々いるんで、日本もあっていいんじゃないかなと。でも、よく言ってるんですけど、そういうのって一言で言うとカルチャーですよね。別にラーメン作ろうが、空間設計しようが、そういう人たちが、Tシャツ作っちゃ駄目とか、そういう感じではないと思ってるし。

◎そうですね。

ただ、これがふた昔前とかだと、面白がられずに、嫌がられたと思うんですよね。でも今だと何でもありなんでいいんじゃないですか?

◎兼業もありな時代になってますもんね。別に建築家がラーメン作ろうがね。

本当そうなんです。ラーメン活動は大事なんですよ。厨房の使いやすさとか、客席の見え方とか、厨房側からの視点がわかるんです。設計する人は大抵、客席側を中心に考えちゃいますよね。そこを厨房を使ってる側からも話せるので、ちょっと逆転した見方ができたりして。

◎この間、パリでのポップアップの時も、Tシャツを作ってましたよね。なんかSNSでも局地的にバズってたって?

あれも結構すぐ売れましたね。面白かったのは、今まではTシャツを作ったら自分のオンラインだけで売ってたんですけど、今回、自分の設計した飲食店と、友人の店でも売るようにしたんですよ。そうしたら、どこもすぐに完売してて。さらに面白かったのは某店では高校生も買いにきたらしいんです(笑)

◎関っ子?

関っ子(笑)うちの仕事をよく見てくれる人が最近ちょいちょいいるんですけど、ある人がスペインのビルバオの山奥にあるレストランにも行ってくれたんですよ。夏前ぐらいにその方が、「スペインに行きたいけど、さすがにハードルが高くて…」と言ってたんです。そうしたらつい先週くらいですけど、本当に行ってくれて。旦那さんと行かれたみたいなんですけど、嬉しかったんで、レストランのシェフにすぐ連絡して、そのご夫婦にシャンパンを「あちらの席の方からです」でやってもらいました(笑)東京ビルバオ間1万キロの距離を超えて。

◎最高だね。関っ子が世界に広がるね。

まぁその人は結構大人ですけどね(笑)でも簡単に行けない場所なんです。ビルバオ空港に着いて、タクシーで1万円ぐらい払っていくところ。英語もあんまり通じないんで、行くの大変だと思うんすよ。美術館を設計したとか、そういう規模であれば可能性は全然ありますけど。そんなレストラン一軒のためにはなかなか行かないですよ。だから、ちょっとずつ何か届いてるんだなという実感はありますよね。

◎でも、面白いですよね、階段に階段をつけるとか、なかなか想像つかないですからね。

言葉にしたら面白いですけどね(笑)あれも、ツイッター(現X)では相当炎上してましたね。実際、法律もちゃんと守ってるんですよ。でもそれを誤解して、調べもせずに違法だとかって騒ぐ人、建築界隈もゼロではなくて。そのスレスレをやるのが面白いし、あれをやったことで、若い人たちや、別のジャンルの人、ファッションデザイナーとかのインスピレーションソースになればいいと思うし。

◎あれを保育園や老人ホームでやったら色々と言われてもしょうがないけど、TPOじゃないですか?

そうなんですよ。もちろん、場所は大事にしますよ。トータルで見たら駄目ってことでも、そもそもそこがどういう場所で、どういう人が来てとかっていう条件を整理すれば、OKにもなるんですよね。だからその情報や条件の整理の仕方が、もしかしたらちょっと他社とは違うのかもしれないです。やっぱり、カルチャーの可能性を広げたいんですよね。カルチャーって一言で言ってしまうんですけど、結局は習慣とか、日常の部分ですよね。そこにちょっとでも見たことないものを置くっていうのが、僕は大事なことだと思っていて。そこから、次のステップにジャンプしてくれる人が多分現れるので、それの積み重ねだと思うんですよね。多分紀元前からそれを繰り返してる。それに近い感覚でいるんですけどね。ただでも、内装なので、一生は残らないという。

◎確かに。変わっていくものですもんね。

なので、継承はしていってほしいなと思ってますよね。まぁ、乱暴か…。長谷川昭雄さんの場所も。

◎関さんらしい仕上がりですね。

直接的な乱暴さ、出てますからね(笑)まぁでもその乱暴に見えるところに、乱暴な人がいたら、本当に乱暴なんですけど、やっぱりそこもTPOで。そこにあるコンテンツがそもそもどういうものかっていうところから、調整をしてます。

◎他のジャンルだと成立することが、建築だとやっぱり安全性とかにも関わるから、なかなかできなかったりするんだと思うんですよ。それがやっぱ関印(せきじるし)!っていうね、シグネイチャーがドーンと入ることによって…

許容範囲になっちゃいますからね。ちょっとここに点を置いたらそれで広がるみたいな。でも安藤忠雄さんも結構そうなんじゃないですか?RC打ちっぱなしとか。あれで多分一気に流れ変わったと思います。

◎本当に、今後流れが変わるんじゃないかっていう気はして。やっぱ新しく建てるっていうよりは、(スキーマ建築計画の)長坂(常)さんじゃないけど、既にあるものを使って、新しい価値観を生み出すっていうのは、世界的にも新しい潮流だと思うし。そこをやっぱり、関さんが乱暴に乗り越えるというのは、また新しい選択肢を生み出しているという気はしますね。

そうですね。なんか無茶なことしてるって言われるのはしょうがないと思ってますけど、僕の中では普通なんですよ。

◎我々がか弱き小羊みたいに何でもかんでも怖がっているのかもしれない。「ここも尖ってる!怖い怖い!」って。

いやいやいや(笑)でも多分、比較するのはちょっとおかしいですけど、マルタン・マルジェラとかも多分そんな感じなんじゃないですか、そもそも普通のことをやってるつもりというか。

◎そうかもしれないですね。ファッションは、ペンキを塗った服がOKなんですよ。だけど、建築は駄目なんですよ。

それが嫌なんですよ。

◎だから、関さんが開けた穴をみんながありだよね!ってなってくると思う。

仕事の依頼が来て、それを成功させるっていうのは本当にもう最低限のことなんです。そこに付随するものを、どれだけ世の中に還元できるかっていうのは、考えるようになっちゃいましたね。それって、数人の先輩たちがよくわかんないことをやってて、情報として教育してくれたっていう部分はやっぱりあるんですよね。

◎そのうち、追い抜いちゃったりしてね。

いやいやいや(笑)でも一緒に何かプロジェクトしたいですねって話はあったんすけどね。そういう話もあんまりないんすよ、建築の業界って。ファッションだと余裕であるじゃないですか?ダブルネームとか、トリプルネームとか。

◎今コラボしてなんぼの世界ですからね。

そうなんですよ。それがね、あんまりないんすよね。だからそういう意味ではすごい寂しい部分。なんか囲っちゃうところがあるから。

◎私、近いうちに<アディダス>と<ナイキ>がコラボすると思うんだよね。

いや本当、その可能性はあると思いますよ。多分1回だけでしょうけどね(笑)それぐらい柔軟でいてほしいじゃないすか、世の中。なので、「Sniite」とかも、ソファーは<TORAFU ARCHITECTS>のプロダクトだし、なんかそういうのを積極的にやっていきたいんですけどね。それで来た人が知ることもあるじゃないすか。一つのお店で、この人がデザインしたっていう一つの情報よりも、この人がデザインして、このプロダクトはこの人っていう方が、一つで二つ美味しい。お店からすると二倍じゃないすか。

◎音楽っぽいね。featuring TORAFU ARCHITECTS みたいな。Seki loves…

そうそう(笑)本当そうっすよ、いやマジでヒップホップですよ。大事じゃないですか。でも結構みんな「うちはオートクチュールだから!」みたいな。

◎確かにね。その感覚はあるんだろうね。

<サカイ>とかやっぱそういうの柔軟ですよね。最近の<カーハート>とかもそうだし、<ナイキ>ともずっとやってるし。

◎そうね、あんまり自分たちだけでやってると重くなっちゃうからね。そういうコラボをしたりとか、軽さというか、必要ですよね。

もうちょっとカジュアルに考えてもいいような気がするんですけどね。それがなかなか。

関さんによるデザインの店「マドロム」にて。「シャッターを切っただけの強気な入り口が面白い」by前田

◎面白いですね。そこは関さんの先駆的な感覚ですよ。

いやもうファッションばっかり見てきたんで本当に。どんだけ空っぽの店行ったか。ステッカーしか売ってないみたいな(笑)

◎今日お休みですか?みたいなね。

そうそう、何もないじゃんみたいな(笑)「ノーウェア」とか。でもあの文化、面白かったです。

◎確かに。結局あの文化が未だに続いてるからね。

本当そうですよ。でもあの経験はすごい良かったと思います。あの当時の買えなかった服とか、今だにメルカリで探しますもんね(笑)それで買うと、Tシャツとかはやっぱり今の主流と違ったりするんで。でも生地とかは昔の方が良さそうだなとか。なんかそういう結びついていく感覚って面白いじゃないすか。そこの部分は大事にしたいし、うちが繋げてる部分に対して、フォロワーの人とか、お客さんとかも気づいてくれるとすごく嬉しいですけどね。ファッションの人もどこまで考えてるかわかんないすけど。

◎ノリだよね。

結構、勢いとノリだと思いますよ。

◎じゃないと続けられないっていう部分はあるだろうね。

キコ・コスタディノフとかどうなんすかね。結構いろいろ考えてそう。

◎ノリな気がしますよね。とにかく時間がないだろうから、もうパッパッパッと瞬発力でやるしかないんじゃないかな。それがもう良くも悪くも、軽さというか、心地よさというか、重厚感が出過ぎない良さっていうか。

あぁ、でもうちもそうかもしれないですねそういう意味では。

◎あんまり熟考して、駄目なとこを潰していく考えだと、勢いがないですよね。

そうですね、止まっちゃいますからね。出し戻しも多いし。

◎ですよね。他にはどんなプロジェクトを手がけていますか?

12月にオープンするTechnicsの京都のスペースがあるんですけど、それも良い意味で「またそんなことやって…」みたいなプランで。新築の物件なんですけど、床がホテルのラウンジみたいな、グリッドの入った石が入ってる床なんです。その床を丸く、直径3mちょっとぐらいの大きさに切るんすよ。穴を開けるんじゃなくて、切るだけ。それで丸く切った円の床をちょっとずらすってことをするんですよ。そうするとその円の部分だけ、丸い部分がグリッド揃ってたのに、ちょっとずれる。それが2個並んでる。そこでTechnicsを表現するっていう。それ以外の場所は元々の内装からほとんど触ってないんです。

◎彫刻的ですね。

リファレンスは、韓国滞在中に路上で見た工事跡です(笑)

◎そういうことだよね。面白いね。見に行きたいなぁ。

レコードを並べたりロゴを大きくとかではなくて、感覚的にTechnicsの空間と分かってもらう。リスニングルームなんで、音がある。そこに説明的な視覚情報は必要ないだろうって思っていて、でも、もうちょっとうちの要素も欲しいし。「それでじゃあ、切りましょう」みたいな。施工屋さんも「石割れますよ?」とか言ってて、「いや割れていいんですよ逆に」って(笑)割れてた方がその場でやったっていうふうになるから。「それじゃあ切った床の溝は埋めますよね?」と言われて、「いや埋めないです。そのままで。もうそこで切った感を出してください」って。

◎なるほど。面白い。現代アートしてますね。

そうですね、何か物を増やすっていよりかは、マッタ=クラーク的に空間を理解して、空間彫刻みたいな要素が出るんじゃないかなと思ってはいますね。でも一番面白いのは、それを許容したTechnicsですね。

◎確かに。次行ったら担当者がいなかったりしてね(笑)

床もすごい綺麗なグリッドが入ってる中国産のなんたらかんたらって石で、「結構高いんですよ」ってオーナーに言われて。「そうなんですか、じゃあ切りますね」って(笑)

◎今までの考え方っていうか、それが良い悪いとかじゃなくて、切ったらヤスリかけて綺麗にするっていうのがセオリーなわけじゃない。それを意識的にやらない、もしくは場所を選んで仕上げを決めるっていうのは、やっぱり今だからできるよね。もちろん技術や感覚のアップデートがあると思うんだけど、今だからできる新しいアプローチとは言えると思う。前は綺麗なものが美しかったけど、今は「このコンクリートの欠け、美しい…」みたいに変わったとは言えるんですよね。

ファッションってもっと早かったじゃないすか。川久保(玲)さんがボロニットを出して、フランスで評価されて。

◎ですよね。今ニットに穴が空いてるのは普通じゃないですか。

昔からパンクが好きだったんですよ。マルコム・マクラーレンとか、ヴィヴィアン・ウェストウッドとか。あの人らの服、ボロボロじゃないすか。セックス・ピストルズとか。なんなんですかね、ハマった瞬間っていうのは正直覚えてないですけども、やっぱあれは根底にある気がしますね。あれでOKっていう。

関祐介

<Yusuke Seki Studio>主宰のデザイナー。<sacai>、<Kiko Kostadinov>、<ANREALAGE>などグローバルブランドとの協業をはじめ、「Kumu 金沢」、「Suba soba」、「Sniite」などローカルに紐付いたホテル、レストランまで幅広く設計を行う。東京、神戸、京都の3都市に拠点を持つ。

Yusuke Seki Studio

Interviewed, Photographed by Akinobu Maeda