• EVERYONE‘S CHAIR

PLY CHAIR

ジャスパー・モリソンのこのダイニングチェアは、一目惚れだった。まだ大学生だったのに、原宿にできて間もなかったhh style(*2000年キャットストリートに竣工した妹島和世設計のクレインズ6142ビル。現在は別のテナントに)で見てしまった。合板でできていて、すごく軽い。座面と前方の脚はしっかり直角を守ったデザインで、背中側が古風な椅子っぽいフォルムでカーブしている。型紙を当てて切ったみたいにそっけない。背板もなくフレームだけ。至極シンプルなのに、とてもチャーミング。

どうしても欲しくて、一脚だけ買った。イームズジャン・プルーヴェ の家具ブームがあった頃だ。私は当時建築学科の学生。とある授業で、イームズの新しさは、柱や梁、床から、カーテンとか置物まで、大小問わず平等に見ている ことだと教わった。プルーヴェの魅力はジョイントにあるとも言っていた。バッキー・フラー も、あのドリーミンなアイデア を、テンセグリティ の部品と部品をつなぐ小さなジョイントからイマジンしていた。モリソンは彼らよりずいぶん若いけれど、きっとそれを理解している。ありきたりのネジで留めた部分をそのままにしたこの椅子を見ればわかる。神は細部に宿る。ネジは隠すもんじゃない。

しばらくは部屋に置いて観賞用にしていた。そのうち一級建築士試験のため、1年かけて勉強することになった。二次は製図で、しかも手描き。仕事が終わって帰宅し、何時間も製図台にかじりつく日々が続いた。そのとき、初めてこの椅子を使った。何時間座っても、お尻も腰も疲れ知らずだった。二度目の出番はフリーランスになったとき。1年くらいでオフィスチェアを買ったので、今はまた観賞用だ。これを使うのは、何かにかじりついているときだけ。食事をとるのに使ったことは一度もない。

Written & Photographed by Satoko Shibahara