• EVERYONE‘S CHAIR

MANDARIN CHAIR

ある晩、友人と食事をしていて、どういうわけか彼の家にある椅子の話になった。いつもの調子で「あれ頂戴よ」と冗談を飛ばすと「いいっすよ」と友人。え、いいの? 心変わりをしないように、そそくさと会計を済ませて、タクシーで彼の家に向かったのを覚えている。

その椅子がノール社のマンダリンチェア。一本のスチールパイプがループする不思議な造形は、メンフィスを率いたエットレ・ソットサスによるデザイン。ググってみると、80年代当時は様々なカラーリングが存在したらしい。なかでも有名なのは赤のパイプに黒のファブリックのコンビ。実はこれも元々そうだった。でも我が家には少し派手な気がして(友人には悪いが)パイプの塗装をすることにした。

家具屋さんの見積もりは、なかなかの金額だったが、自転車のフレーム塗装を得意とする町工場が格安で引き受けてくれた。色は悩んだ挙句にマスタードイエローをリクエスト。この色のマンダリンチェアに日焼けしたダイニングテーブルを合わせたインテリアをピンタレストで見つけて、それを参考にした。

そうして今の姿に落ち着いた我が家のマンダリンチェア。以前と比べると、部屋の景色に馴染んでくれたものの、それでもまだよそよそしい。なぜだろう。調べてみると、お手本にしたマスタードイエローのパイプは、スチール製ではなくバンブー製と判明。つまり素地だったのだ。そうとも知らず、塗装に出したことに後悔の念がよぎったが、これでいいのだ!とバカボンパパを決め込んだ。

光沢感のあるアームと起毛したファブリックのコントラスト。そして座面の下をくぐるパイプワークが気に入っている。もちろん色も最高。

それはそうと、青山一丁目にある赤坂郵便局。その窓口になぜかマンダリンチェアがある。それも赤いパイプのモデル。在りし日の姿を見ると、少しだけ心がザワつくので、あの郵便局には行くまい、と決めていた。なのだが、つい先日郵便局でしか対応できない急用があり、仕方なく赤坂郵便局に寄った。すると、あるはずのマンダリンチェアが姿を消していて、ヤコブセンのセブンチェア(リプロ?)が並んでいた。なんなんだ、この郵便局は。違う感情で心がザワついた。

Written by Shigeru Nakagawa
Photographed by Seishi Shirakawa