• EVERYONE‘S CHAIR

THE “SELLA”

座ると痛い椅子。

美しいフォルムと佇まい。座りごごちがいい。人間工学に基づく機能。制作にまつわる惹きつけられるようなストーリー。といった事柄が、椅子を語る上では欠かせない。レディメイドな仕上がりのこの「Sella」は、1957年に電話用スツールとして発表されたみたいだけど、いろんな意味でなんだか頼りない。ピンクの鉄の支柱に自転車のサドルが取り付けられただけの簡単だけど、とても可愛い佇まいが愛おしい。出せそうで出せない雰囲気。

ところがこの椅子、可愛い見た目と裏腹に5秒も座っていることができない。グラグラと不安定な上につんざくような痛みが股間に走る。立っているほうが楽と言いたくなるような痛み。この椅子に座る人はみんな「なんで買ったんですか?」と口をそろえる。

この椅子をデザインしたのはイタリアのデザイナー、アッキレ・カスティリオーニさん。ググってもらえれば、あーアレか!と名前と仕事がすぐに一致すると思う。ソットサスとはまた違った感じのイタリアらしい楽しくも批評的なプロダクトを数多く生み出した巨匠の一人。イタリアを代表するデザイナーなのだけど、彼の眼差しは常に大衆的で生活者の側に立っている。僕はそんなところにやられてしまい、この「Sella」を買ってしまったのだった。

多木陽介著『アキッレ・カスティリオーニ 自由の探求としてのデザイン』の中で彼はこんなことを語っている。

「私のデザインした作品がどこかのミュージアムに私の名前とともに飾られてあるというのは嬉しいが、私がデザインしたなどとは知らずに、いやそれこそ、物をデザインするという職業があるなんてことも知らずに、普通の家庭の適切な場所で、昔からあった物のように使ってくれるほうがもっと嬉しいね。」

くぅぅ、僕もこんなこといえるような大人になりたい。

Written & Photographed by Akinobu Maeda