• EVERYONE'S WINE

LA SORGA

ここの白ワインが異様に好みだ、ハズレがない、と気づいてから、『ラ ソルガ』のワインに出会うたびテンションが上がる。搾りたての天然果汁のようなジューシーさと、ポカリスエットのように身体に染み入る飲み心地と、かといってスルスルしているだけではない、土地の香りというか、奥行きのある旨味とミネラル感で、恐ろしいほどグラスがすすむ。

生産者のアントニー・トルテュルさんはもともと化学を専攻し、化学者を目指していたという。2017年に出版された『自然派ワイン入門』によると、「ほとんど偶然の失敗が入り込む余地のない管理体制を維持している。30種類ほどのワインを生産していて、その数は年間5万本ほどにのぼるが、そのどれもが無添加で人工的な温度調節もしていない。彼は完璧主義者で、発酵中のぶどう果汁を定期的に顕微鏡で観察し、そこに含まれる酵母を数え、分類する。さらには白ワイン作りでブドウの皮と接触させることで発酵が進みやすいことの理由を追求するため、自分のラボで観察に基づくリサーチも行っている」とある。化学の道を志していた人らしい、論理的なアプローチだ。洗練された味とも自然豊かな農場ともまったく関係なさそうな強めのエチケットもいい。

そんなアントニーさんに直接会える機会があった。昨年1月、「サプライ」の1周年記念イベントにいらっしゃったのだ。カーリーヘアと豊かなヒゲをたくわえたその姿は、シャツにスラックス姿だったら学者のようにも見えそうだし、繊細でアーティスティックなムードはロックバンドのベーシストのようでもあった。

あれから1年後、気軽な来日も、ギュウギュウの店内での酒盛りも考えられなくなるなんて……!

でもきっとアントニーさんは今日も変わらず南仏のラボで顕微鏡を覗いているんだろう。美味しいワインをありがとうございます、と念じて、買ってきた『ラ ソルガ』の栓を開ける。

昨年1月「サプライ」にいらっしゃった時のアントニーさん(左)。
南フランスからやって来た『ラ ソルガ』のバックヴィンテージワインが「サプライ」の一角にずらり並んだ、夢のようなひととき。
先日ワイン屋で見つけて持ち帰った<Maître Splinter 2019>。メタルのジャケットのようなエチケット。美味。

Written by Saya Kawada