「イースター」ってなんだ?と思いながらミラノの街を歩いた。’98年だったかな。大学の春休みを使って友人と一緒にイタリア旅行に出かけた。初めてのイタリアだった。バスに乗り、ローマやフィレンツェ、ベローナなどを回って、最後にミラノに辿り着いた。イースター中のミラノではお店も休暇中のため、できることは公園や教会に行くことぐらいだった。友人が「イースターって復活祭らしいよ」と教えてくれたので、とりあえずキリスト教の宗教的式典だ、と冷めた温度で「イースター」を認識した。街のショーウィンドーの玉子やうさぎの形をした大きなチョコレートが印象的だった。
帰路のアリタリア航空の機内では珍しくもまだタバコが吸えた。そのせいでイースターを思い出すと、もわ〜んとマジックのような映像が浮かぶ。
大学卒業後すぐ、スウェーデンに引っ越した際にいよいよ実体験として「イースター」が本領を発揮し出した。今まで宗教の「しゅ」の字もなかった友人たちも2週間近く学校が休みになるため、イースターを祝いに故郷に帰って行く。スカンジナビアでは宗教色はそこまで強くないので、長い休暇を利用して家族が集まる理由にしていると言う方がしっくりくるけど。
スウェーデンでは、白樺の枝に鳥の羽を付けて飾り、子供たちは庭に隠された紙で作られた卵のケースに入ったキャンディーを探したり、魔女の格好をして近所を練り歩き、お菓子をもらう。こうなるともうハロウィン状態。食事は特に決まっていないように思うが、ゆで卵はもちろん、メイン料理にラム肉やサーモンを食べる人が多い気がする。何度か参加させてもらったオーストリア人の友人家族の食卓では、編み込まれたパンや色を塗られたゆで卵などが振舞われ、メインの付け合わせにホースラディッシュが出されたので、鼻にツーンとくるホースラディッシュの香りが私にとってのイースターの匂いになっている。
スカンジナビアでは水仙が「イースターリリー」と呼ばれ、至る所で飾られる。水仙はまだ咲いていない蕾の状態でスーパーの野菜売り場で雑に売られていたりもするけど、田舎に住んでいた時は、草原に生える水仙を摘んだ。ノルウェー人の友人がガラス制作で鍛え上げたムキムキの腕筋を花柄ワンピースのノースリーブからあらわにして、草原で摘んだ水仙の大きな花束を抱えて力強く草を掻き分けて現れた時の美しさは今でも忘れられない。黄色い水仙が、ガラス制作には欠かせない腕の筋肉を神々しく見せ、「よし!制作、頑張るぞ!」と思わせてくれた。
この季節、色んな思い出が蘇るけど、結局未だに「イースター」ってなんだ?と思う。

ストックホルム在住のYoko Andersson Yamanoが綴る、「少し夢心地だけど、ちゃんと現実」の思い出にまつわる話。
Written & Photographed by Yoko Andersson Yamano / Craft-based glass-artist, Tableware designer