荒い運転のタクシーに揺さぶられながら、ソウルの街を抜けて、大きな橋を渡っていく。マンションが乱立してて、東京もそうだけど、ソウルも住むところに苦労しそうだと思った。自分のオフィスに併設するプロジェクトスペース「PAAMA」の柿落としに韓国人アーティスト/デザイナーのカンホーさん(Lee Kwangho)の展示を11月に行うことになっている。その展示の詳細を詰めるのと、『TOO MUCHマガジン』から発行される作品集の取材で彼のソウルのオフィスと郊外のオフィスをまわってきた。(前田)
◎今回の訪韓はカンホー・チュクチェ(カンホー祭り)なんです。
(笑)
◎今日のランチは一緒にサラダを食べましたが、普段、カンホーさんはお昼どうしているんですか?
コンビニとかで簡単に済ませることが多いです。
◎そうなんですね。昨日、僕らは冷麺屋に行ってきました。市場と問屋街の間にある店「オジャンドンフンナムチプ」。(iPhoneを見せる)ここ、知ってます?
デーデー。(はいはい)
◎当てもなく彷徨い続けたら、ここだけ開いていたんですよ。閉店ギリギリでしたけど。
◎このインタビューはカンホーさんに聞く、ソウル冷麺ガイドがいいのかな?(『TOO MUCHマガジン』辻村さん)
僕はとりあえず冷麺が好き。さっきのお店以外もいくつかいい店があります。お酒を飲むので、おつまみが美味しいところはいくつか知ってます。冷麺は焼酎と飲んだ方が美味しいんです。ハムン式とピョンヤン式っていうのがあって、昨日召し上がったのがハムン式で、味がしっかりしてる。
◎へー。そうなんだ。
ピョンヤンの方は繊細で優しい味で、僕はそっちの方が好き。今流行ってて、みんながインスタグラムに載せているのはピョンヤン式が多いです。センスよく見えるので。有名人はみんなハムンっていうよりはピョンヤン冷麺の方によく行くんです。ピョンヤン冷麺が好きっていうと、「わたし、味を知っている」っていう感じになるんです(笑)
◎(笑)
自分の舌が肥えていることを見せたいんですね。ピョンヤン冷麺の有名店になればなるほど、味がどんどん薄くなるんです。
◎面白いね!
誰かが最初の一口は焼酎と一緒に食べた方が美味しいっていうのを流行らせてしまって。お酒が飲める人は焼酎と冷麺を一緒に食べるのが文化になってきた。
◎へー、知らなかった。それじゃあ、カンホーさんのおすすめを聞いてもいいですか?
おすすめは(iPhoneをさしながら)この「ウルミルデ」。ここは僕が好きなスタイルではないんだけど、人気ではある。あとは「ピルドンミョンオク」と「ウルチミョンオク」。それぞれ麺の太さも違います。
◎えー。細かい!
「ウルチミョンオク」の方が太くて、「ピルドンミョンオク」の方が若干細いです。やっぱり麺が太いとちょっとこうプチっと切れてしまう感覚あって、僕はあんまり好きじゃない。僕はもっと細くてするする、もちもちしてる感じが好き。日本の蕎麦は召し上がってるからわかりますよね?
◎はい。
僕の食べ方は唐辛子をティースプーン一杯入れます。
◎勉強になります!私も昨日、カラシと酢を入れて食べるべし!と店員さんに教えてもらいました。ジェスチャーで会話したので合ってるか不安でしたけど。この2店はピョンヤン冷麺の中でも味は薄いんですか?
はい。びっくりすると思いますよ(笑)僕たち仲間内で話すときは雑巾を洗った水っていうぐらい穏やかな何もしない味って言ってます。
◎(笑)味が想像できない!
めちゃめちゃ有名でめちゃめちゃ美味しいです。
◎行くしかないね!
実際、平壌では最後に冷麺がちょっと残ったらそこにご飯を入れて食べるんです。熱いご飯じゃなくて冷めたご飯。僕もやってみたんですけど、めっちゃ美味しいです。
◎うんうん。
麺のスープはお肉のスープなので、テールスープのお茶漬けみたいな感じです。
◎へえ、やってみよう。
この平壌の食べ方は朝鮮戦争の後ソウルに残った家族が続けてきた慣習で、年配の方が今でもこの食べ方をしています。
◎なるほど。すごい話。冷麺以外に、その北朝鮮の料理っていうのはあるんですか?
思いつかないですね。冷麺だけ特化されて他のはあんまりないです。
◎そうなんですね。流石に平壌にフライドチキンはなさそうだもんね。
あります!(ベックさん)
◎あるの!?
去年、平壌に一度行きました! チキンありましたよ。(ベックさん)
◎平壌にいけるんですね!
その時は政府が仲良かったから。ツアーが当たって、母と平壌に行ってきました。ピョンヤン冷麺も食べましたよ。硬かった。(ベックさん)
僕も行ったことありますよ。
◎え!
僕も向こうで食べたけど、なぜかすごく味が刺激的で、こっちで食べる方が美味しい。
◎気軽に北と交流ができないものかと思い込んでました。
でも、それがどうやって味はが変わっていったのかはわからないけど、全然違った。
◎そうなんですね。
今考えたらソウルにある北朝鮮の食べ物、一個だけありました。北式餃子「マンドゥ」っていうのがあって。大きいんです。最近ちょっと大衆化されたんだけど。だから冷麺食べに行く?ってお店に行くと、たまにその餃子も置いてる場合があるんです。
◎気になるなぁ。マントウとかモモとかそんな感じかな。前にソウルに来た時、発酵したエイ(ホンオフェ)を食べたんです。すごい匂いのエイ。知ってます?
あ、あのめちゃくちゃ臭いのですね! 私は食べられない!(ベックさん)
◎刺身はまだ良かったんだけど、エイの内臓のチゲは食べきれなかった…。注文する時におばちゃんが「イルボン(日本)?」って聞いてきて「はい」って言ったら大丈夫かなーという顔していたんだよね。
僕の仲間内では「エイの会」っていうのがあって、いろんなエイのお店を回ってるんですけど、僕たちでもそのエイのチゲはちょっと手が出せません。お刺身とか発酵してるものとか、本当に美味しいところを見つけたくて、いろんなところに行ってるんです。地域とか発酵した期間によって全然味が変わるんですよ。フクサンド(黒山島)っていう島のものはやっぱり一番美味しいんです。
◎発酵の期間によって全然味が変わるのは興味深い。また挑戦したいなぁ。
…本当にこれでインタビューできてますか?
◎大丈夫です! とてもいい話が聞けました!
※以下、カンホーさんに聞いた冷麺屋さん。開店時間に間に合わず、結局どこも食べに行けませんでした…(前田)
ウルミルデ(乙密台本店)
24 Sungmun-gil, Mapo-gu, Seoul, 韓国
ピルドンミョンオク
26 Seoae-ro, Jung District, Seoul, 韓国
ウルチミョンオク(乙支麺屋)
55−1 Nagwon-dong, Jongno District, Seoul, 韓国
私が行ったハムン式の冷麺。美味しかったです。(前田)
オジャンドンフンナムチプ(오장동흥남집 본점)
114 Mareunnae-ro, Jung District, Seoul, 韓国
李 光鎬(イ・カンホー)Lee Kwangho
1981年、韓国・ソウル郊外の生まれ。ホンギク大学で金属工芸を専攻し、2007年卒業。韓国のソウルを拠点に活動。身の回りにある素材から、さまざまな日用品をつくっていた農業家の祖父の影響を受け、幼少期から自らの手で身近な素材をもとに新たに作り出すことに楽しみを見出してきた。その体験をもとに、日常のものに新たな意味と機能を与える手法で日々制作を続けている。最近は、素材が別の素材と結びつく瞬間を発見することをテーマに次々と新作を発表している。
https://www.instagram.com/_kwangho_lee/
Design Miami/Basel で審査員特別賞(2009 年)
韓国政府文化部の Artist of the Year(2011 年)
Yaol/韓国文化遺産協会の Young Craftsman of the Year(2013 年)
Designer of the Year(2017年)など受賞多数。
EXHIBITION
“OBSESSION”
LEE KWANGHO
2024.11.15 fri – 12.7 sat
Open 1PM – 6 PM (Close Sun Mon Tue)
at PAAMA
1F-B Sakurahouse kagurazaka
160-1 Yaraicho Shinjuku-ku Tokyo
Interviewed, Photographed by Akinobu Maeda